11月28日 本館5階 所長室にて開催
出席者 江崎 信芳 (所 長 写真上中央)
佐藤 直樹 (副所長 写真上左)
時任 宣博 (副所長 写真上右)
長崎 順一 (前化研担当事務室長 写真右)
続編2 テーマ
「化研が目指す学内連携」

目次
事務部再編と宇治地区連携
21世紀COEについての今後の課題

事務部再編と宇治地区連携

江崎 お金の使い方に、もう少し自由度が認められれば、これから先が非常に楽しみになると思います。

時任 お金も人も窮屈な状態はよくないですね。京大として、全体の予算をもっとフレキシブルに考える必要があります。その点は所長に部局長会議などで考えていただくなど、常にその要求を出し続けていただきたいですね。

江崎 できるだけ部局にお金の使い方の自由度を与えて欲しいということですね。

佐藤 国から地方へということですか。

時任 民にできることは民へというのだから、部局でできることは部局にということですね。

江崎 今後はおそらく自由度も増していくのではないかと思いますが…。

長崎 予算の話となると、京都大学の事務は考え方が古いのかもしれないと思うことがあります。法人化後は、説明責任が果たせれば新たな試みが可能と言われながら、自由度がない。

時任 事務についてはいろいろと課題が山積みですが、無理をしてまで以前のような化研事務室を再興する必要はないと思います。一番必要な機能を抽出していろんな形で組めればそれでいい。基盤的な事務作業をきちんと効率よく統合事務がやってくれるなら、我々はりませんよね。

江崎 ブレーン制ですよね。宇治地区事務部が定型的なことを分掌する一方、化研担当事務室が室長を中心に、化研固有の事務の方向性を示しつつ、具体的な事務作業に関して創意工夫を凝らすことが大事です。

時任 事務の簡素化だけではなくて起動力を上げる。別の形でやってもいいのかもしれないですね。

長崎 今の事務体制は起動性が発揮できない状態にあります。しかし、実はもっと機動性を発揮できるということを事務員全員が認識しておく必要があると思います。

時任 事務を統合すると稟議書の類が増えてしまうという心配がありました。実際、各部局のことが宇治地区の事務部長まで逐一届くから、部長は大変です。宇治地区事務部として統合される前の化研固有の事務室のほうがトップダウンはしやすかったでしょう。

江崎 化研にとって大事なことを決める席に担当事務室長が呼ばれてない現状もおかしいと思います。考え方や発想はこまめに変えていかないと。

長崎 大学の事務がどっちを向いて仕事をしているのかという疑問は、私が勤め出した40年前からずっとなげかけられております。今回、法人化して一体どこを向けばよいのかという模索状態のなかで、未だ闇の中というのが現状です。

時任 事務の仕事をするにしても、もっと広い視野を持って自分の所属した大学なり部局なりをよくしようという目で見てくれれば有り難いです。前例主義や事なかれ主義に陥るとあまり生産的ではないですからね。

長崎 そうですね。そこに喜びを得たら、仕事にも張り合いが出ますしね。

時任 法人化後の事務部では、大学を越えての異動はなくなったんですか?

長崎 部長や室長、掛長など、上層部は動けると思います。

時任 同じ大学に事務員全員が固定していたら大変なことになります。新陳代謝は必要です。

長崎 法人化しても、そういった異動が必要だと思うんです。国立大学同士で動くのではなくって、私立の、例えば立命、同志社などの私立を含めた人事交流がこれから先必要だと思います。

時任 私立はものすごく少ない人数で事務をやっているんですよね。国立系に比べてずっと規模が小さくてもきちんと稼動しているケースもあるようです。

長崎 本来そうなんでしょうね。ただ、国立大学法人ではそんな軽快には動けないというのが現実ですね。

↑宇治地区事務部

江崎 改革に取り組み始めたところですから難しいとは思いますけれども、少なくとも宇治の中では、事務部長をはじめ、頑張られている方が大勢いらっしゃる、そんな体制の中、化研担当事務室長のところでのパワーアップといいますか、ものごとを軽快に処理して行くために工夫できる「強さとしなやかさ」をシステムとして整備してほしいと思います。

時任 それに加えて決断権というか、判断までそこに任せることができれば、理想的ですよね。交通整理だけだと疲れるし虚しい。判断は部長や課長に仰がなければならないとなると、こういった方々は宇治地区内の研究所の諸会議陪席などのため席を外していることも多いので、所事決定が遅れがちです。些細なこともなかなか処理できない。学内での宇治地区の地位を高めるためにも、事務能力「京大ナンバーワン」をめざすべきです。そのためには形式主義を廃して実質本意に徹し、処理速度を上げないといけません。情報収集能力も含めて、後手にまわることが多くては困ります。宇治地区事務部が統合されて6年が経ち、新旧両体制の長短が見えてきて「手厚さと効率」が向上してもよい頃だと思うのですが、まだ過渡期なのですかね。

長崎 事務全体の再編が進む中で機能分化と集約が進んできましたから、「手厚さと高速化」を目指してもう一度揺り動かさねば。

時任 経理や研究協力といった各部局共通の部署は、慣れて勝手がわかってきたのかもしれないですね。ただ研究所ごとにミッションが違い、おのおの目指すものは全く違う。元来、根本的に再考すべき問題点があると思えば、逆に徹底的に伸ばすべき長所もある。部局によって千差晩別で、一律には処理できない。多様なものを相手にしているのに、統合体制の中でそれらを平均化してしまいがちであるという点が、宇治地区事務部の抱える根本的な問題ですね。

長崎 研究所ごとにいろんなやり方があるというのは、大前提だと思うんです。事務的な資料の作成方法などは、四つの研究所ともに統一したやり方でいいと思うんですけれど、内容など細かい部分に関しては、研究分野によって考え方が違いますからね。化研はそんな中でもさらにいろんな分野にまたがっていますから、いろんな考えが出て当然。事務が一つだからといって、宇治地区の四つの研究所の考え方まで一つにならなければいけないということはないと思うんです。私は化学研究所事務の担当であって、例えば防災研究所の先生方が考えておられることまでは把握できませんからね。

時任 防災研究所も化研以上にたくさんの部署があって、フィールドワークからデスクワークまで、非常に幅広い業務形態のなかで、組織も全国に広がっていますから大変でしょうね。でもここ3年間、4研究所連携に携わってきて思ったことですが、これだけユニークな研究所が集まっている宇治地区ですから、強くではなく、揺るやかに連携するのが理想でしょう。ところが、正規の連携組織として活動しようとすると、全学の許可を受ける必要があり、それがなかなか簡単ではない。大学のスリム化の波に呑み込まれてはならないと警戒するためかもしれませんが、真に学術的な意味での組織連携を提案しても、その主旨が理解されず、手続き上の問題を理由に否定されてしまうのは、少し残念に思います。時期が悪いのかもしれませんが。

江崎 宇治の4研究所の統合事務組織の在り方については過渡期でして、今後、外面ではなく内実で真に効率のよい運営法を模索せねばなりません。一緒にできることは一緒にやるとしても、研究所ごとに処理した方が効率的と思われる業務については、実はこれが意外にたくさんあるのですが、再編を進めて各研究所担当事務部を大きくし、そこに権限を与えて、各々で処理する方がよいでしょう。その方が臨機応変に融通をきかせることができ、効率的です。早急にそれを実現していかなくてはなりません。宇治地区を京都大学における事務改革のモデルにするくらいにと思って頑張らなければなりませんね。

時任 他部局では統合事務が解消され、部局ごとへの個別化が進む中、宇治地区事務部では、一緒にすべきことは一緒に、個別にすべきことは個別にと適正に分別し、真の効率化を図って、全学の先鋭モデルになることを目指すべきでしょう。全学的にみれば統合事務は不評で、部局の面倒をきちんと見てくれる小さな事務組織がよいと思われているようですが、重複しているところは統合して効率化を図るべきです。ただ、統合化によって失われがちなこと、すなわち、個々の部局に軸足を置いた思いやりのあるサービスをどのようにして提供するかが課題です。宇治地区がそれをやり遂げて見せればよいわけです。

佐藤 昨年の4月に宇治地区の事務の再編という大仕事があって、それには宇治の教職員が一致協力して取り組んできたわけですよね。それが一つの形となったので、これは事務改善のいいモデルになるからと、平成16年度の中期計画に対する実績報告書の特記事項に書いて本部の委員会に提出したんです。そうしたら、最終的には削除されてしまったことが分かって驚きました。

時任 全学の大学評価委員会小委員会員会での説明は、特記事項に書くことではないということでした。何でもよいから出しなさいと言われて提出したわけですけれども、いざ出してみると、そういうことを書く主旨のものではない、ということでした。

佐藤 全学の事務再編をする上で、一つの模範例になりうる重要なことだったと思うんですけれどもねぇ。

江崎 宇治地区事務部の再編に関しては、日々の運営が困難な状況のなか、業務をしつつアンケートをとり、立案、実施するなど、非常によく努力をしましたよね。

佐藤 補助金の申請から執行まで一つの掛でやるという発想は、考えてみれば至極もっともなことですが、今までそれを実際に行おうという取り組みは絶対になかった。しかし今、現実にそれが実現できているわけですからね。

江崎 とはいえ、それで終わりということにはならないですよね、宇治地区統合事務のもとには、個性のあるユニークな研究所が四つもあるわけで。

↑宇治キャンパスより(研究所本館の中庭)から五雲峰を望む(左 化研/中央 宇治地区事務部/右 防災研、生存研)

時任 さまざまな事柄に対してフィードバックするシステムを設けて、早く、悪いところはすぐにでも改められるようにできればいいんですけどね。

江崎 宇治地区内の連携については、これから取り組むべき課題がまだまだ山積みです。

時任 そういった連携の動きがあることをもっとみんなが認識しないと、中途半端な連中と思われて、学内での宇治地区の相対的地位が下がってしてしまいます。部局の取り組みの姿勢や本気度を試すために無理矢理に組織改編させるといった、一種の「踏み絵テスト」をされては辛いので、なんとか努力している最中です。それは下支えがあって初めてできることで、一部の人間だけがもがいてもどうしようもありません。大学の執行部である理事が2005年の10月からほとんど入れ替わりましたから、これまでの3年間に比べると、連携への要求の度合いやペースも違ってきています。始終ころころ変わる朝令暮改のような取り組みではみんなが困るので、研究所のメンバーが信頼できるフィードバックの仕方を模索していかなくてはなりません。多少の温度差はあっても、四つの研究所ができるだけ足並みをそろえながら、お互いが前向きに理解している状況が必要です。新しいことを否定する保守的な足の引っぱり方はしないように願いたいですね。そのためには、連携についてもっと説明する機会をもたなければいけないですね。

江崎 具体的にはどんなことがありますか?

時任 宇治地区の連携に関する序盤の取り組みとして、研究者ディレクトリーや、大型機器の一覧を作ろうという動きがあります。そういうものはきちんと作って残しておく必要がありますよね。誰がいて何をしていて、何を持っているか、という情報を共有するのはいいことだと思います。
佐藤 いい意味での積極的な姿勢につながり、また、他の目的にも有用でしょう。


21世紀COEについての今後の課題

時任ポスト21世紀COEは、院生にとってもすごく大きな問題です。我々の化学研究所では、京大の他部局と連携して実行しているものも含め、21世紀COEプログラムが全部で三つ推進中ですが、そのうち一つ「京都大学化学連携研究教育拠点」の部局世話役を私がさせていただきました。理学研究科の化学専攻と工学研究科の2専攻という3部局の合同で、今は4年目、来年度が5年目で最終年です。化研のなかではそれなりの理解と協力が得られてうまく進んでいると思いますが、これを続けたいと思って同じ枠組みで申請しても、他のプログラムとの関係もあって学内での支持は得にくく、外からもなかなか認めてもらえないでしょう。来年も必ず募集があると期待して、準備を始めたところですけれども、学内でもう一度リシャッフルするらしく、まだ先行き不透明です。ただ、この制度があることによって、優秀な大学院生は適度なサポートを得て研究に取り組めているのは事実ですし、それを何かの形で継続したいですよね。それにはまず、学内のコンペティションで化学が採択されることが必須ですし、化研がどんな形で参画するかも考えておかないといけません。

江崎 化学と物理の融合というのは、化研が進めつつある「新プロ」プロジェクトの切り口ですが、物理と化学の両方がある化研ならではの特徴にできるかもしれません。

時任 物理の21世紀COEは1期で始まったのではなく、2期ではなかったですかね?

佐藤 ええ、2期です。ですから、1年ずれているので、物理と化学の融合を謳って…と考えても応募しにくいんですよね。物理と化学が一緒に出せないような仕組みになっているので、それが大きな問題ですね。

江崎 融合といっても、化学や物理といった異なる学問を同じ切り口で捉え、組み合わせを考えて、テーマを選んでやるだけのことなんですが、そこで大事なのは化研、理学、工学が一緒になって、お互いの壁を低くして協力し合うということです。学問の分野の違いをお互いに認め合った上で、多分野が一緒に取り組むこの活動自体が大事なので、今後も続けていくべきです。

時任 再度応募することを想定して、新しい理事と一緒に学内のルールづくりを進めていく、拠点リーダー会議「新しい枠組づくりを考える会」も始まりました。静観していて対応が遅れると、応募までの準備期間がなくなるので要注意です。十分な議論を尽くすためにも、現在の拠点リーダーだけでなく実際にCOEに参画してもらっている研究室の方に常々、次はどうするかと尋ねて、情報収集と心の準備をしてもらわないといけません。以前化学分野での応募を検討した段階では、化研単独で何か応募しようという意見もあったのですが、この連携ばやりのときに、パイが小さい単一部局での応募では不利でしょう。学内でできる連携協力は、これまでに築いたものをなるべく活かしながら、新しい切り口が見える形で取り組めればと思いますね。なんとか新しい道が開ければ良いのですが。

江崎 切り口はいろいろあると思いますよ。

時任 ポスト21世紀COEについては、部局長会議などいろいろな会議でも話題に上ると思うので、なるべく早く情報をキャッチしていただければと思います。

江崎 化研、理学、工学が協力した事例がよかったということであれば、またやりましょうということになるはずです。いい知恵を出して新たな化学の側面を見いだせる切り口をぜひ探したいものです。

時任 第1期、第2期を逃した部局や、今度こそ新しく出したいという分野もありますから、より広い分野に適応できる切り口が理想ですが、融合という考え方も難しくて、パイが小さいからとあまりにも幅の広いところでくくろうとすると、ちょっと無理な部分があります。とはいえ、化研だけの判断基準ではなんともいえません。学内全体のコンセンサス、総意が必要でしょう。

江崎 異分野が融合したプロジェクトが動いたことは本当によかったと思います。

↑新しい研究グループの創成

時任 最も恩恵を得たり、被害が及んだりするのは院生ですよね。この21世紀COEを5年前にプロポーズしたときも、中間ヒアリングのときも、必ずチェックされたのは、このプログラムが終わったときに京都大学はどういうサポートをしますか、ということです。しかし、今のところ、明確な答えを聞いておりません。それが問題です。京大の執行部が何らかの明確な対応策を出さねばならず、出したとしても、遅きに失した、ということのないようにしてもらわねばなりません。優秀な院生のサポートという面で大学として何か新しい仕組みを作る必要があると思います。現行の制度では、間接経費は博士研究員採用には使えないという制約があり、ポスドク雇用費に転用できないそうです。事務あるいは技術支援員など、インフラ要員の雇用は認められますが、それでは院生への支援につなげることができません。そこのところを何とかして、総長裁量の枠内で何か別の形による大学の制度として、財源確保ができればいいんですけれども。

江崎 資金面も確かに大切ですが、内容的にどういうプロセスや成果があったかということを、携わった化研、理学、工学でもう一度、話し合ってみなくてはなりませんね。

時任 あと、来年度の夏には国際的な外部評価を受けますので、アカデミックなアチーブメントはちゃんと評価されるように気は配っておき、そのときにはみんなでその4年半の成果を学内外にアピールする必要があるでしょうね。例えば東京で会議をやって、コラボレーションの深さと高さを見せるといった計画はあるようです。

↑21世紀COEプログラム 京都大学化学連携研究教育拠点 第1回の全体会議(2002.11.29)

江崎 21世紀COEのなかで、非常に大事なアクションとして、教育というものを研究所と研究科が一緒に考えるという姿勢が出てきたわけです。これは本当に意味のあることです。化学の大学院教育を、教育が主務とされている理学研究科や工学研究科とともに、研究が主務とされてきた化学研究所が一緒になってこれからの化学教育をどうしましょうと考えることになりました。これは、たとえば宇治地区内の研究所が集まって、規模は小さくてもポスト21世紀COEを立ち上げ、研究所が教育についてもどのように貢献できるか考えて実施してみるための伏線になっているとも考えられます。そういった動きはすごく大事なことですよね。

時任 京大というのは大きい大学で、教育にしても研究にしても縦割りになりがちです。本来ならもっと横の壁が低くて情報交換が盛んな状況にあるべきで、そうであれば院生にとってももっとチャンスがあるはずです。それをみすみす逃していたようなところがあるように思います。21世紀COEの事業の一環として「京大化学連携講義」を行っていますが、今回その領域3(新規物質創製変換)の連携講義を化研を会場にして実施しましたが、その聴講者のレポートを見ても「新鮮で楽しかった」とか「興味が持てた」という感想がかなり多くありました。そういうところに素直におもしろいと書くのは、普段接している部局以外の先生の話は新鮮に聞こえるだけでなく別の価値観も吹き込むのかなあ、という感じがしました。

江崎 第一期は、割合に仲良しの系統が集まって進めた面もあります。連携講義については研究科の枠に拘らず単位がとれるように認められましたが、次はそれに加え、例えば融合的なコースを設けるとか、何かそういったもう少し積極的なアクションにまで進んでいくといいですね。化研がそれに積極的に関与できれば、教育の現場に研究所も参加するというすごくいい姿を示すことになります。もともと協力講座として大学院教育に参加しているわけですけれど、主体的に教育プログラムを作ったり、その一環としてコースを設けたりして参加していくことも可能になってくる…。これは大事な動きですから、積極的に向き合っていきたいものです。

時任 大きな大学ですので、そういう制度改革には時間がかかってしまうのが残念です。理念はいいのに、発案して実際に審議して制度になって、やっと院生のもとへと届くには、2、3年かかる。教育の制度改革というのはなまじっかなことではいきません。研究科の先生方はそれをよくご存知だから、研究所サイドからあまり安直な提案をしますと、無責任な提案だという判断で非協力的になってしまわれる。やっぱりまずはお互いをよく知って、協力することの意義を浸透させなくてはいけませんね。あまり先に制度改革を振りかざしていくのはよくありません。まずお見合いというか、仲良くなるほうが大事ですよね。

江崎 目指すのは、形を作り上げること自体ではなく、その「中身」ですからね。

佐藤 単位の認定にしても、21世紀COEの連携講義だから関係研究科の単位として認められるというのが現状です。例えば、協力講座から新たないい講義の提案があった場合、専攻の中ではその意義が十分認められていることを確かめたのちに専攻から申請しても、研究科のレベルになると認めてもらえないんです。そういうことが実際に今起こっていて、一所懸命に努力していてもなかなか改善が進まないといった感じは否めません。このような改革には時間がどうしてもかかる。したがって、その突破口の一つとして、21世紀COEの役割は非常に大きいと思いますよね。

時任 現状のままでは、21世紀COEもあくまでも特別講義としてしか扱われていませんから、定常的な講義として組み入れてもらうには、講義を提供する側の永続性や制度とともに予算的な裏付けも必要でしょうね。

江崎 ダイナミックな結びつきで「化研」と「理学研究科」と「工学研究科」が組んだこのプロジェクトは、これからの時代に必要な一歩進んだ取り組みだったと思います。評価も一様ではないかも知れませんが、ぜひ本当にその取り組みの視点と実施状況をきちんと見て、評価して欲しいものです。コピーではなくその延長線上へ、さらに発展的なものとして立ち上げられる方向へとその評価がつながれば大きな意味をもつと思います。そのためには、化研が中心的な役割を果たしていかないといけないでしょう。

時任 「京都大学化学連携研究教育拠点」は、5年前に当時所長の高野先生から担当を依頼されて引き受けたプロジェクトですが、最初の発案の段階では3部局合同の大デパートメント構想だったんです。しかしそれではあまりにも広い分野にわたっていたため、比較的基礎化学に近い分野での三つということで参加する専攻を絞りましたが、それでも化研の中にはまだ異論もありました。「なぜそこまでパイを小さくして「理」と「工」と組む必要があるのか」というような…。たぶん、今度もまた新たな動きに対してはどうしても保守的な意見が出てくるかも知れません。

江崎 予算的な観点からすると一部局のほうが進めやすいですが、そんな閉じたことをしていると、その成果が非常に限定的なものになってしまいます。

時任 これまでの3年半の経過を見ていると、化研の先生方は非常に協力的で各節目での協力要請には十分に答えてもらっています。いい枠組みさえあれば化研は協力できる素地はあると思っていますで、あとは他部局との関係ですが、いかんせんこれは相手あってのこと、したがって常に情報を仕入れておくことが第一ですね。

↑共同研究棟で行われた平成17年度化学研究所大学院生研究発表会でのポスター発表(化学研究所では毎年度末に、所属研究科・専攻の別なくその年度に修了/研究指導認定となる全院生が、修士課程はポスター、博士後期課程は口頭で研究発表を行い、専門分野の枠を越えた聴衆からの質問やコメントを受ける。研究所を挙げての院生教育の仕上げとも言いうる。)

江崎 教育に関して研究所が貢献できること、それが何かを明確に示していくことも、一つの鍵じゃないかなぁと思うんですよね。

時任 全学共通科目とか入試実務とか、教育現場に対して研究所の貢献が薄いという、そしりを受けることが多いのも事実。個々の先生方が下請けで小売りするような貢献の仕方ではなく、もう少し研究所を挙げて、ある程度大規模な形で貢献する必要があると思います。あとは学事要項にも明らかとなる形で、できる限り全学共通科目などもどんどん引き受ける努力をしなきゃいけないでしょう。

佐藤 事実として、研究科だけが教育を担っているわけではないですからね。

時任 自然系でも人数から推測して、少なくとも3分の1は協力講座があるはずです。

佐藤 「大学の附置研」ですから、大学にいる限りやっぱり教育という意識は必ず持っていますから、それをどういう形で生かしていくかですよね。

時任 研究所の教員が教育の単なる協力者としてしか扱われない事態は問題だと思いますから、我々としては研究科への協力は惜しみなく図るべきでしょう。今後の京大としても、皆で協力してやろうという体制はくずさないはずです。教育体制に協力する気持ちを具体的な形にしていけば、研究三昧の生活を謳歌している集団だということを理由にして切り売りされるような部局にはならないはずです。

佐藤 そう願いたいですね。

時任 全学的な議論の場では、ときにはラジカルな意見が出る場合もあると思います。その場合、研究所代表としての所長さん方には、それを押し止めたり、もっとジェネラルな意見を掘り起こしたりする努力が必要でしょう。研究科、研究所の双方とも、いろいろ激しい意見についても聴く耳は持ち、そこにお互いが協力できるいい仕組みを提案しながら、自分たちで成し遂げていこうとする実行力が不可欠です。研究所側から見たとき、切られても仕様がないような非協力的な組織ではダメです。研究も教育も一所懸命やらなくてはね。やることをやった上で言うことを言わないと要求はなかなか実現しませんね。

江崎 化研のように100人もの教員がいる層の厚い組織は、非常にパワーが出せますよね。いろんな先生方がいますので、適材適所で頑張っていただければ言うことはありませんね。

ほかを見る
掲載編 80周年を迎えて
(黄檗24号P1,2)
続編1 当面の課題
続編2
化研が目指す学内連携
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続編3 社会への情報発信と所内連絡体制
■化研創立80周年を振り返って
■研究専念のできる場所
■これからの化研
■目指すべき研究環境
■第二期中期計画に向けて
■化研の一員として
外への情報発信とその体制
社会への姿勢
所内連絡会の意義
所内広報充実のポイント
21世紀COEについての今後の課題
■事務部再編と宇治地区連携