磁壁のトポロジーが不変: 界面効果に誘起される新しい磁壁移動機構の発見

小野 輝男教授ら
(材料機能化学研究系 ナノスピントロニクス研究領域)

 

後列左から東野隆之さん、森山貴広助教、小野輝男教授、
前列左からKim Kab-Jin助教、吉村瑶子さん、谷口卓也さん

 
この研究成果は、2015年11月9日に英国科学誌Nature Physicsにオンライン公開されました。
 
 京都大学化学研究所の小野輝男教授、Kim Kab-Jin助教、森山貴広助教、上田浩平氏(現マサチューセッツ工科大学研究員)、平松亮氏(現産業技術総合研究所研究員)、大学院生の吉村瑶子氏、谷口卓也氏、東野隆之氏らの研究グループは、電気通信大学の仲谷栄伸教授、山田啓介氏との共同研究により、磁壁のトポロジーが不変である新しい磁壁移動機構を発見しました。
 
 磁場による磁壁移動機構はよく知られていますが、磁性層と非磁性層の界面が磁壁の移動に与える影響はよく分かっていませんでした。今回、界面効果のある系を用いて磁壁を磁場で移動させる実験を行ったところ、従来からよく知られていた機構よりも数倍の速さで磁壁が移動することを見いだしました。さらにシミュレーションと実験結果を比較検討することで、この速度の違いが磁壁のトポロジーが不変である新しい磁壁移動機構からもたらされていることが明らかとなりました。磁壁移動に対する界面効果の影響を明らかにした本研究成果は、基礎的にも応用的にも重要な知見といえます。
 
本研究の概念図  
(左)これまで知られていた磁壁移動機構:小さい磁場では磁壁内部の磁化が固定されて磁壁が動き(steady motion)、ある磁場(Walker磁場)より大きくなると、磁壁内部の磁化が歳差運動を伴って磁壁が移動(precessional motion)する。
(右)本研究で発見された新しい磁壁移動機構: 界面効果と2次元という効果が加わると、Walker磁場より大きな磁場を印加した場合、precessional motionではなく、磁壁のトポロジーが不変である新しい磁壁移動機構で磁壁が移動する。
 

●用語解説●

 

磁壁: 強磁性体中の磁区と磁区の境界で磁化がねじれている領域。磁壁は磁場によって移動させることができる。

 

界面効果: 本研究における界面効果とはジャロシンスキー・守谷相互作用をさす。交換相互作用が強磁性体中の隣り合う磁化を互いに平行に向けようとするのに対し、ジャロシンスキー・守谷相互作用は隣り合う磁化を傾けようとする。

 
 
 本研究の一部は、科学研究費補助金「基盤研究(S)」、「学術創成研究費」、「特別推進研究」、「特別研究員奨励費」、「京都大学化学研究所共同利用・共同研究拠点研究」によって支援されました。
 
 Yoshimura, Y.; Kim, K.J.; Taniguchi, T.; Tono, T.; Ueda, K.; Hiramatsu, R.; Moriyama, T.; Yamada, K.; Nakatani, Y.; Ono. T., Soliton-like Magnetic Domain Wall Motion Induced by the Interfacial Dzyaloshinskii-Moriya Interaction, Nature Physics, doi:10.1038/nphys3535 (2015).