電流に替わる新たな物理量として注目のスピン流。その電流ゆらぎの検出に成功 -スピントロニクス発展への寄与に大きな期待-

小野 輝男教授ら

 

この研究成果は、2015年1月7日に米国科学誌Physical Review Lettersのオンライン速報版に発表され、「Editors’ Suggestion」に選ばれました。
 小野輝男 化学研究所教授、小林研介 大阪大学大学院理学研究科教授(元化学研究所准教授)、荒川智紀 同助教(元化学研究所大学院生)、塩貝純一 東北大学金属材料研究所助教、好田誠 同工学研究科准教授、新田淳作 同教授らは、Dieter Weiss レーゲンスブルグ大学(ドイツ)教授の研究グループとの共同研究により、微小な半導体素子中にスピン流を生成し、それに伴う電流ゆらぎの検出に成功しました。
 
 従来、スピン流の検出を行うには強磁性体や、スピンホール効果を用いてスピン流を電流に変換する必要がありました。ショット雑音による方法を発展させれば、原理的に物質に依存せず、スピン流の絶対値を直接求めることが可能です。これはスピントランジスタやスピン注入磁化反転などの新規デバイスの創出を目指すスピントロニクスの発展において大きな利点となります。
 
図1 測定手法の概念図
強磁性半導体(Ga,Mn)Asから非磁性半導体GaAsにスピン注入電流を流すことでスピン流を生成します。この時、右方向に純スピン流が流れ、赤字で示した検出用のトンネル接合にスピン流を印加することができます。
 

●用語解説●

 

スピン流:伝導体を流れる電流はアップスピン電子によるものとダウンスピン電子によるものの2種類に分けることができる。通常の電流はこれら2つの和であるの対し、スピン流は2つの差である。特に、2種類の電流の絶対値が等しく方向が逆の場合を純スピン流と呼ぶ。この場合は正味の電流はなく、スピンモーメントのみが伝導体を流れる。

電流ゆらぎ:試料で発生する電流の時間的なゆらぎ(雑音)であり、主に熱的なゆらぎに起因する熱雑音と電子の分配過程に起因するショット雑音からなる。通常測定では、電流の時間的なゆらぎを高速フーリエ変換によって電流スペクトル密度に変換して評価するのが一般的である。

スピントロニクス:電子がもつ電荷だけでなくスピンを積極的に利用することで新機能を持ったデバイス開発を目的とした研究分野。

 
 
本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(S) (No. 26220711)、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「ゆらぎと構造」(No.25103003)、日本学術振興会 科学研究費補助金 スタートアップ支援 (No. 25887037)、村田学術振興財団、および京都大学化学研究所の共同利用・共同研究拠点の補助を受けて行われました。