谷口(山本)幸美 研究員、 柘植知彦 助教、青山卓史 教授ら「根の水分屈性応答を促進する因子を発見!」

平成21年2月 トピックス

谷口(山本)幸美 研究員、柘植知彦 助教、青山 卓史 教授ら

(生体機能化学研究系 生体分子情報研究領域)


左から青山卓史 教授、柘植知彦 助教、谷口(山本)幸美 研究員

 リン脂質は一般的に生体膜の構成成分として知られていますが、その中には細胞内シグナルの伝達物質として働く分子種が多数存在します。今回我々のグループはそのようなシグナル分子であるホスファチジン酸(PA)を生成する脂質代謝酵素ホスホリパーゼD(PLD)の一つPLDζ2がシロイヌナズナの根の水分屈性応答を促進する因子であることを明らかにしました。

PLDζ2は、湿度の勾配に対するセンサーであると考えられている根冠で発現します(図1参照)。また、その発現は乾燥処理や環境ストレス応答に関わる植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)の添加により上昇します(図1参照)。PLDζ2を発現できない突然変異体の根では野生型の根に比べて、水分屈性応答が遅くなります(図2参照)。これらのことから、乾燥ストレスがABAを介して根冠におけるPLDζ2の発現を上昇させ、PLDζ2がPAの生成を介して湿度勾配シグナルの伝達を促進することが示唆されました。根は重力や光など様々な環境シグナルに応答してその伸長方向を変化させることが知られています。このような根の屈性の中で、水分を得るための屈性は、水分の枯渇が致命的であり、かつ移動することができない植物にとって最も重要なものと考えられています。この意味において、リン脂質シグナルの水分屈性応答における関与は、植物の環境応答における脂質シグナルの重要性をあらためて示すものです。この成果はPlantaの2010年第231巻に掲載予定です。

図1

シロイヌナズナの根端断面の模式図。水分屈性応答において、湿度勾配は根冠(赤色で示す部分)で感知され、そこからのシグナルにより根の細胞伸長領域における不等伸長(赤矢印で示す)を引き起こし、根の屈曲が起こると考えられている。PLDζ2遺伝子は乾燥時において根冠の細胞で強く発現し、水分屈性応答を促進する働きを持つ。

図2

突然変異体を用いた水分屈性応答の実験。シロイヌナズナのPLDζ2遺伝子の欠損変異体では、野生型株に比べて水分屈性応答が有意に遅れる。

●用語解説●

水分屈性:乾燥条件下において、根が湿度勾配を感知し、湿度の高い方向へと屈曲する性質。湿度勾配は根冠(図1の赤で示す部分)で感知され、その情報が根の細胞伸長領域に伝わり、そこで細胞が不等伸長を起こすことにより根が屈曲すると考えられている。

植物ホルモン:植物が植物体内で生産し、植物の生理過程を調節する生長調節物質。オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノステロイド、ジャスモン酸、サリチル酸などが知られている。

アブシジン酸(ABA):植物ホルモンの一つ。乾燥や低温ストレスにおけるシグナル伝達を行う他、植物の休眠促進や種子の発芽抑制にも関わる。
環境ストレス応答:植物は動物と異なり移動することが出来ないため、周辺環境の変化をすばやく感知し、それに応答した反応(乾燥に応答して気孔が閉じる、光の来る方向に葉を向けるなど)を示す。この応答を環境ストレス応答という。

環境ストレス応答:植物は動物と異なり移動することが出来ないため、周辺環境の変化をすばやく感知し、それに応答した反応(乾燥に応答して気孔が閉じる、光の来る方向に葉を向けるなど)を示す。この応答を環境ストレス応答という。

根冠:植物の根の先端(根端)を保護する組織。また、根端の保護以外にも外界環境(重力や湿度など)を感知するセンサーが存在する組織でもある。