松田 一成准教授、金光 義彦教授ら「一本一本のカーボンナノチューブを光学的に観察する手法を駆使し、1次元物質であるナノチューブが光に対して特徴的な応答を示す」ことを明らかに(08/1/15発表)

平成20年5月 トピックス

松田一成准教授、金光義彦教授ら

(平成20年1月15日「Physical Review B」に発表)

光ナノ量子元素科学研究領域の松田一成准教授、金光義彦教授、ならびに東京大学・丸山茂夫教授らの研究グループは、一本一本のカーボンナノチューブを光学的に観察する手法を駆使し、1次元物質であるナノチューブが光に対して特徴的な応答を示すことを明らかにしました。


松田一成准教授(左)と金光義彦教授(右)


図1 単層カーボンナノチューブ

 1991年にNECの飯島博士によって発見されて以来世界的に注目されているカーボンナノチューブは、直径わずか1nm、長さ数μmの細長い筒状の形をした材料です(図1)。近年、その電子状態についての研究が進むにつれ、光機能性材料として新たな注目を集めています。しかしながら、一本一本のナノチューブでその性質が大きく異なるという特徴が、その光物性・機能性を理解するうえでの大きなネックとなっていました。

 松田准教授らは、一本一本のナノチューブを光学的に観察する手法を駆使して詳細な光学測定を行い、通常の半導体と異なり光に対して特徴的な応答を示すことを明らかにしました。図2は、一本一本のカーボンナノチューブからの微弱な発光を捉え、3次元マッピングしたものです。さらに挿入図に、低温(30K)での一本の発光スペクトルを示しています。これは、ナノチューブの中につくられた励起子(電子とその抜け穴である正孔がつくる水素原子様な束縛状態)が消滅する時に発せられるもので、そのスペクトルは様々な電子状態の情報を含んでいます。これからわかることは、ナノチューブの中につくられた励起子は低温で1ps(10-12sec)ほどの時間、量子コヒーレンス(位相)が保たれていることです。


図2 カーボンナノチューブの発光イメージとスペクトル

 その一方で、2個の励起子がつくる励起子分子と呼ばれる束縛状態(水素分子様な状態)ができにくく、普通の半導体とは大きく振舞いが異なることが明らかとなりました。これは、一次元のナノチューブをレールとみなすと、そのレール上を運動する2個の励起子同士の衝突頻度が非常に高いことに起因していることがわかりました。つまり2個の励起子は、束縛状態を形成する前に衝突しエネルギーを失うため、束縛状態ができにくいと考えられます。現在、その特徴を利用した新しい光機能性への応用を目指しています。

 上記の研究成果は、これまでの研究で培ってきたイメージング分光の高度化が基礎となっており、その業績により松田一成准教授は平成19年3月に(財)丸文研究奨励賞、平成19年9月に第1回日本物理学会若手奨励賞等を受賞しています。