高橋 雅英准教授ら「光を当てることによりはじまる一連の化学過程を制御してマイクロ周期構造の形成に成功」(07/11/26発表)

平成19年11月 トピックス

高橋雅英准教授、植村幸司(M2)、徳田陽明助教、横尾俊信教授(無機フォトニクス材料研究領域)、梶弘典准教授(分子材料化学研究領域)ら

(平成19年11月26日「Advanced Materials」にて発表)

 無機フォトニクス材料研究領域の高橋雅英准教授らは、Plinio Innocenzi教授(サッサリ大学ナノテク・材料研究所)、Claudio Marcelli教授(イタリア国立核物理学研究所)らと共同で、薄膜に光を照射するだけという簡便な手法を用いて、自己組織的にマイクロメーター領域の周期的フォトニック構造を有する酸化物薄膜の作製方法を開発しました。
光情報処理や光センシングの実現には、光の波長程度の周期を持つ格子状の構造を利用することが不可欠となっています。このような構造はフォトニック構造として近年盛んに研究されています。フォトニック構造の作製には、フォトリソグラフィーを中心とする半導体プロセスが活用されていますが、複雑な工程や熟練した技術がいることから、より簡便な手法の開発が望まれています。


高橋 雅英准教授(左)と植村幸司さん(M2)(右)

 高橋准教授らは、ゾル-ゲル成膜法を用いて酸化物薄膜を作製する際に、光重合性の有機分子を利用することにより、バックリングを利用してフォトニック構造の酸化物薄膜を作製できることを見いだしました。バックリングは、日本語では「座屈」と言われる現象で、日常生活でよく見かける現象です。たとえば、日焼けした肌には、普段よりシワが目立ちます。これは、日焼けにより肌が普段より硬くなり、笑ったり、動いたりして皮膚の下の筋肉を動かす時のストレスを吸収できなくなり、シワができてしまうという現象です。この現象をうまくコントロールすることにより、酸化物薄膜にフォトニック構造を作製できることが分かりました。

図1. 自己組織的周期構造酸化物薄膜形成プロセスの模式図
1. 有機ー無機ハイブリッド(チタニアーアクリルアミド系)を基板上にコーティング。 2. 紫外光硬化処理。 3. 座屈効果による表面周期構造の形成。 4. 熱処理により種々の表面構造酸化物薄膜を形成できる。

 今回開発されたフォトニック構造形成手法の模式図を図1に示します。光重合性有機分子を含有する、有機-無機ハイブリッドコーティングに、一定の条件で紫外光を照射することにより、薄膜表面に高分子皮膜を作製し、酸化物化する際の収縮により表面に「シワ」を形成することができます。表面の皮の下の酸化物薄膜の収縮挙動に、シワの形成が依存するために、うまく収縮を制御するとフォトニック構造酸化物薄膜を作製することができます。

図2にはこの手法で作製した二次元フォトニック構造TiO2薄膜の原子間力顕微鏡イメージを示します。このような複雑な構造も、市販のブラックランプとガラス基板2枚で作製できます。サブミクロンから数十ミクロンまでの周期構造を自在に作製できることから、非常に簡単にフォトニック構造を作製できる手法として注目されているだけでなく、既存の光リソグラフィーとの互換性も高く、光集積回路の大面積一括成形への応用も検討されています。
これらの薄膜を作製する際には、コーティング溶液の化学設計が非常に重要です。薄膜の状態変化を、サッサリ大学とイタリア国立核物理学研究所との共同研究である、「時間分解赤外分光法」により詳細に解析した結果を用いて解析し、化学設計にフィードバックすることにより実現できました。

図2. 自己組織的に形成した二次元フォトニック構造チタニア薄膜の原子間力顕微鏡像
周期構造チタニア薄膜を基板上に形成し、第二層を同様のプロセスで形成する。第二層は第一層に垂直に周期構造を形成するために二次元フォトニック構造を非常に簡便に得ることができる。上図は、励起光として市販のブラックライト、シリカガラス基板とコーティング液のみで形成することが可能であり、簡便な大面積フォトニック構造形成手法として注目される。

この成果は、Advanced Materialsに採択されました。レフリーとエディターに、「きわめて重要な研究成果」と認定され、2007年11月26日に同雑誌Webページ上の重要論文を速報する専門ページ「Advances in Advance」コーナーにて公開されました。また、本成果により得られたマイクロ構造チタニア薄膜の光学顕微鏡写真が同雑誌(vol.24)の表紙を飾ることが決定しています。