阪部 周二教授、橋田 昌樹准教授ら「高強度フェムト秒レーザー誘起クーロン爆発によるアルゴンクラスターの表面剥離」(06年発表)

平成19年9月 トピックス

阪部周二教授、橋田昌樹准教授ら

高強度フェムト秒レーザー技術のに飛躍的な発展により、高強度レーザーと物質との相互作用の物理の研究分野においても新しい局面が拓かれている。すなわち、超高光場中の物質物理を調べることが可能となる。従来の高強度レーザーはそのパルス幅は数10ps~数nsであり、このようなパルス光をいかなる物質に照射しても、物質は単にイオン化し、プラズマ状態に変化してしまうため、相互作用に物質の個性が現われることはなく、単なるレーザープラズマ相互作用となる。


橋田准教授(左)、阪部教授(右)

他方、パルス幅が数100fs以下の極高強度短パルスレーザーではレーザーエネルギーパルスエネルギーが物質内部に移行し、態変化が熱的に起こる前に瞬時に強度の高い光場を物質に印加することができる。我々の研究室ではこのような高強度極短パルスレーザーとの物質との相互作用の物理とその応用の研究を行なっているが、その一例として、高強度フェムト秒レーザーにより強い電磁場中の物質の物理を調べる事ができるが、ナノ秒レーザーでは行なえない。なぜなら、物質が単にイオン化し、プラズマ状態に変化するため、その相互作用はもはやレーザー物質相互作用ではなく、物質の初期特性を反映しない単なるレーザープラズマ相互作用となるからである。

レーザー実験チャンバー

我々の研究室ではこのような高強度極短パルスレーザーとの物質との相互作用の物理とその応用の研究を行なっているが、その一例として、レーザーとナノあるいはミクロン粒子との相互作用は大変興味深いものである。つまり、系はレーザーの波長よりも短く、外部から電子が供給されない孤立固体系である。我々はアルゴンクラスター(10万個の分子集合体)に高強度レーザーを照射し飛散してくるイオンのエネルギー分布を詳細に調べることにより、ナノ秒レーザーでは見られない現象を明らかにした。ナノ秒レーザーではレーザーによりクラスターが加熱されプラズマとなり等温・断熱膨張し、その結果イオンが飛散してくるのであるが、極短パルスレーザーを用いた結果では、レーザーの電場により瞬時に電子がクラスターより脱し、残されたイオン群中のクーロン反発力により爆発が起こりイオンが飛散していることを示した。この現象は、レーザーの強度を適切に調整することにより、クラスター表面にのみ起こすことが可能であり、表面だけが爆発することも実験的に初めて示した(図1)。ナノ粒子の加工の要素技術としての可能性もある。

図.1高強度フェムト秒レーザー誘起クーロン爆発によるアルゴンクラスター表面が剥離する様子

本研究成果は米国雑誌「Physical Review A」に掲載されました。
(Physical Review A 74, 043205(2006))