水谷 正治助教、大西 利幸博士研究員、坂田 完三名誉教授ら「P450の酵素化学的解析によるブラシノステロイド新規生合成経路の解明」(06/11/18発表)

平成19年7月 トピックス

水谷正治助教、大西利幸博士研究員、坂田完三名誉教授ら

(平成18年11月30日「The Plant Cell」に発表)

 シトクロムP450(以下P450)は、分子状酸素から一原子の酸素を基質に導入する反応(RH + O2 + NADPH2+ → ROH + H2O + NADP+)を触媒する酸素添加酵素であり、活性中心のシステインにヘム鉄が配位する膜結合型ヘムタンパク質です。P450は様々な植物ホルモンや生理活性物質の生合成に関与しています。


水谷助教(左)、大西博士研究員(中)、坂田名誉教授(右)

植物ステロイドの一種であるブラシノステロイド(以下BR)は、植物の伸長生長や光形態形成をコントロールする重要な植物ホルモンです。活性型ブラシノライド(BL)は膜成分であるカンペステロール(CR)から多くの酸素添加反応を経て生合成され、BRの構造多様性はステロイド骨格および側鎖に導入される水酸基あるいはカルボニル基に起因します。BR欠損変異体の解析から、6種のP450(CYP85A, 90A, 90B, 90C, 90D, 724B)がこれら酸素添加反応に関与することが示唆されていましたが、CYP85A以外の各P450の酵素活性は不明でした(図1)。

図1 (a) ブラシノステロイド欠損変異株の表現型 (b) ブラシノステロイド生合成に関わるシトクロムP450

 水谷助教(生体触媒化学研究領域)らは、これら5種のP450の組換え酵素をバキュロウイルス-昆虫細胞系で発現させ、生合成経路(図2)から予想される中間体を全て有機合成により揃え、そして、GCMSやLCMSにより反応生成物を正確に分析することにより、各P450の新しい酵素活性を同定し、また、各酵素の基質特異性を解析しました。従来、BRはカンペスタノール(CN)を経由して生合成されると考えられていましたが、今回の結果から、BRは早期に側鎖C22, 23位が水酸化される、新規な経路によって生合成されることが明らかになりました(図2)。ブラシノステロイドは農業上も重要な植物ホルモンであり、生合成酵素に対する阻害剤あるいは遺伝子組換え技術により、植物サイズの改変や農産物収量増大が今後期待されます。


図2 カンペスタノールを経由しない新規ブラシノステロイド生合成経路

 本研究成果は、平成18年9月23日付の日本農芸化学会英文誌「Biosci. Biotechnol. Biochem.」、および平成18年11月30日付の米国科学誌「The Plant Cell」に発表され、また上記B.B.B.論文は、平成19年3月24日、2006年度日本農芸化学会英文誌B.B.B.論文賞を受賞しました。