「ゲルマニウム化合物」を触媒としたアリールアセチレン類の環化三量化反応の開発に成功

菅原知紘氏(大学院生)、
郭晶東研究員、時任宣博教授、名古屋市立大学 笹森貴裕教授(化学研究所 研究員)

(物質創製化学研究系 有機元素化学研究領域)

 

写真左より、菅原知紘氏(大学院生)、郭晶東研究員、 時任宣博教授、名古屋市立大学 笹森貴裕教授(化学研究所 研究員)

本成果は、2018年2月27日に国際学術雑誌Angewandte Chemie/Angewandte Chemie International Edition誌にオンライン公開されました。 
京都大学化学研究所 菅原知紘氏(大学院生)、郭晶東研究員、時任宣博教授、ならびに、名古屋市立大学 笹森貴裕教授(化学研究所 研究員)、京都大学福井センター 永瀬茂リサーチフェローらは、ゲルマニウム化合物を触媒としたアリールアルキン類の環化三量化反応の開発に成功しました。
 

概要

 有機化学において、小分子変換反応開発は重要な課題であり、精力的に研究が進められています。しかし、クロスカップリング反応をはじめとした小分子変換反応のほとんどは、稀少な遷移金属元素触媒を用いることによって達成されています。一方、元素枯渇の問題を重視して、稀少な遷移金属元素を用いなくてはならなかった反応を、比較的豊富な遷移金属元素やクラーク数の高い高周期元素(ケイ素、ゲルマニウム、スズ)で代替する研究が注目されています。これまでに我々の研究グループでは、かさ高い置換基による立体保護効果を活用して、種々の高周期14族元素間多重結合化合物を合成し、その特異な構造や反応性を明らかにしてきました。今回、中でもゲルマニウム間三重結合化合物(ジゲルミン)の高い反応性に着目して、小分子変換反応について検討を進めました。その結果、ゲルマニウムを触媒とした初めての炭素-炭素間の結合形成反応を開発することに成功しました。
 本研究では、ベンゼン中60℃という比較的温和な条件において、4 mol%の「ジゲルミン」が触媒として働くことで、様々なアリールアセチレンの環化三量化反応が進行し、対応する1,2,4-トリアリールベンゼンが完全な立体選択性で得られることを見出しました。実験結果と理論計算結果により支持される推定触媒反応機構では、反応中にゲルマニウム間三重結合化合物が、環状ジゲルメン(環骨格内にゲルマニウム間二重結合部位を有する化合物)へと変換されると考えられました。これが鍵中間体であり、そのGe=Ge部位が活性な二価化学種としてアリールアセチレンに作用することで触媒反応が進行することが判りました。

 

 

遷移金属を用いない温和な条件での触媒的炭素間結合形成反応の報告例は極めて少なく、今後この典型元素触媒反応は、豊富な元素であるケイ素やアルミニウムを活用する触媒系への展開や、他の小分子変換への応用が期待されています。

 

●用語解説●

クロスカップリング反応:異なる二つの化合物同士を結合させる化学反応の総称。中でも遷移金属を触媒として、ベンゼン環の炭素同士をつなげるクロスカップリング反応はノーベル化学賞受賞の対象にもなっている。
高周期元素:元素周期表における横の並びを周期という。第三周期以降の元素をここでは総称して高周期元素と呼ぶ。
高周期14族元素間多重結合化合物:アルケンやアルキンの高周期14族元素(ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛)類縁体の総称。炭素の系のアルケンやアルキンとは異なる特異な電子状態、分子構造を有することが知られている。