平成23年10月 トピックス 千葉 大地助教、小野 輝男教授、小林 研介准教授、島村 一利さん (材料機能化学研究系 ナノスピントロニクス研究領域) 室温で電圧による磁力のスイッチに成功 〜スピンデバイスの電気的制御手法に新たな道〜 |
![]() 左から小林准教授、島村氏、千葉助教、小野教授 |
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| 千葉大地 化学研究所助教、小野輝男 同教授、小林研介 同准教授、島村一利 同大学院生らと日本電気株式会社(NEC)の研究グループは、科学技術振興機構(JST)課題達成型基礎研究の一環として、金属磁石の磁力を室温で電気的にスイッチすることに世界で初めて成功しました。この研究成果は、英国科学誌Nature Materials誌に2011年10月2日(英国時間)にオンライン公開されました。 | ||
磁性体のキャリア濃度を電気的に制御してその性質を制御する研究は、これまで主に磁性半導体などを用いて行われてきました。ごく最近、磁性金属においても同手法を用いて磁化方向の電圧制御などが報告されるようになってきましたが、磁石の性質そのものを電気的にオンオフさせることは難しいと考えられてきました。今回、代表的な磁性金属であるコバルトの超薄膜に絶縁膜を介して電圧を加えて、コバルト表面の電子濃度を変化させることで磁石の性質をもつ強磁性状態と磁石の性質をもたない常磁性状態を室温でスイッチできることを明らかにしました。これにより、外部から磁界を加えたり温度を変えたりすることなく磁石の性質を電気的にしかもほとんど電流を流すことなく制御できるため、将来的には消費電力の極めて小さな磁気記録デバイスやコイルを用いない電圧駆動式の磁界発生器などへの応用が期待できます。 |
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研究の背景と経緯 |
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| 磁石の性質は、一般的に温度や機械的な歪みによって変化することが知られています。また、外部から加えた磁界や電流により磁石の磁化の方向を変えたり、スイッチしたりすることができるため、ハードディスクや磁気メモリなどの記録メディアとして広く利用・開発されています。このような中、これらデバイス動作の更なる省エネ化・超高速化の観点から、磁界や電流を用いずに、電圧により磁化の方向をスイッチする手法が大きな注目を集めています。特に、絶縁膜を介して磁性体に電圧を加える手法は、半導体の電界効果型素子などに広く用いられているゲーティングと同様の手法であるため、高速動作が期待でき、かつ半導体デバイスと融合した使い方ができる次世代の記録手法として、世界中で研究が盛んに行われるようになってきています。実際、上記の手法を用いることで、強磁性半導体や、ごく最近では強磁性金属においても磁化の方向がゲーティングにより制御できることが報告されるようになってきています。しかし、磁性体において最も基本的な物理現象の一つである、強磁性相転移を電圧で誘起することは、磁性半導体において低温で実現されているにすぎませんでした。 | ||
| 研究の概要 | ||
今回、代表的な強磁性遷移金属であるコバルトの超薄膜に絶縁膜を介してゲート電圧を加えて、コバルト(以下Co)表面の電子濃度を変化させることで強磁性状態と常磁性状態の相転移を室温でスイッチできることを明らかにしました。強磁性金属の磁性を電気的にスイッチすることは世界で初めての成果です。 |
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| 今回作製した素子の模式図と観測された現象の概念図を図1 aとbに示します。Coの超薄膜(図中の強磁性金属)、絶縁膜、ゲート電極からなる素子の上下に±10 Vのゲート電圧を加えて、Coの磁化状態を観測しました。図1 a中では省略されていますが、Co超薄膜はPtとTaの下地層を介してGaAs基板上に成膜されました。素子を作製する前に、磁化測定を行ったところ、膜は垂直方向に磁化しやすいことが確認されました。 |
![]() ![]() 図1 (左) ゲート電圧で磁力をスイッチするための素子の模式図。 |
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![]() ![]() 図2 (a) 310 Kでのゲート電圧印加下での磁化曲線。保磁力がゲート電圧により大きく変化している。磁化状態は異常ホール効果を用いて観測されている。 |
ゲート電圧を加えた時の磁化の外部磁界依存性を図2 a、bに示します。図2 aは310 Kにおける±10 Vのゲート電圧加えた時の磁化曲線(外部磁界は垂直方向に加える)です。両者とも角型の履歴特性を示していますが、保磁力(反転磁界)がゲート電圧によって大きく変化していることが分かります。図2 bは321 Kにおける同曲線です。+10 Vでは角型のヒステリシスですが、−10 Vでは直線的な振る舞いに変化していることが分かります。詳しい調査により、この変化は強磁性相転移によって引き起こされていることが明らかになりました。 | |
| 図3は二つの試料(Pt膜厚が異なる)の強磁性転移温度のゲート電圧依存性です。各試料において、データ点より下の温度では磁石の状態ですが、データ点より上の温度では磁石の性質を失っていることを示しています。その境界を決める温度(データ点)が強磁性転移温度ですが、ゲート電界により明確に制御できていることが分かります。この結果は、室温付近で磁石の性質(つまりは磁力)を電気的にスイッチできることを示しています。 |
図3 強磁性転移温度のゲート電圧依存性 ![]() |
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| 今後の展開 | ||
| この研究成果を用いることで、外部から磁界や電流を加えたり温度を変えたりすることなく磁石の性質を室温で電気的に制御できるようになりました。将来的には、消費電力の極めて小さな磁気記録メディアへの応用や、コイルを用いない電圧駆動式の磁界発生器などへの応用が期待されます。また、材料科学の観点からは、磁化の大きさや強磁性転移温度と原子一個当たりの電子数の関係に鋭く迫ることができるようになると考えています。 | ||
●用語解説● |
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| 本研究への支援 | ||
本研究プロジェクトは、以下の研究費・制度の支援を受けて行われたものです。
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| 本成果は、朝日新聞(10月3日 34面)、日本経済新聞(10月3日 11面)、毎日新聞 (10月3日 21面)、京都新聞(10月3日 22面)、中日新聞(10月3日 32面)の各朝刊 に掲載された他、Yahooニュースにおいても取り上げられました。 | ||